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「流れ行く者」上橋菜穂子   

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まだ暦も変わらないうちから秋らしくなりました。
例年ならまだ残暑に苦しんでいるような気がするのですが、
今年は早くから虫の声が聞こえています。
 
守り人シリーズの短編集を
やっと読み終えました。
4月に出ていたのですが
仕事の忙しさとかなんとかを理由にしていました。
 
今日は仕事で嫌なこともあって
家人もでかけていて
なーんにもしたくなくて
でも結局本を読んで。
 
こんなときに読めるのは
守り人しかないなと思って
読み始めたのでした。
 
守り人シリーズは確実に
違う世界へ連れて行ってくれます。
 
なんか匂いが濃いんですよね、世界の。
食べ物もすごくシンプルなのに
本当の美味しさがあるような気がする。
 
長編の守り人とはひと味違った作品でしたが
守り人の世界はしっかりあったし
短編だから書けたのだというものもちゃんとあって
やっぱり大好きだと思いました。
 
この作品は
バルサとタンダの子供時代が描かれていて
全体に切ない透明感を感じます。
 
読み終えた後、
仕事上のゆううつが
少し小さくなった感じがします。
 
他の世界を
しっかり味わえる作品って
どんな慰めの言葉よりも
癒してくれることがあると思いました。
 

# by momo-iruka | 2008-08-31 02:46 | ファンタジー

「そうか、もう君はいないのか」城山三郎   

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読み終えました。
よかったです。
 
わたしのイメージの中の城山三郎氏は
小難しい文章を連ねている
字の込み入った本を書く人でしたが、
(読んだことないので偏見ですが!)
予想に反して非常に読みやすかったです。
 
訥々とした文章が続き、
また、意外にも、
余韻を残すような文も多く、
(体言止めや「…たり。」など)
どんどん読みすすめました。
 
それに、戦争に行ったという年齢のわりに、
奥さんとの距離感がハイカラというか、
とてもお洒落だと感じました。
 
内容は奥さんと二人で過ごした日々で
子育ての期間の話はすっぽりぬけています。
 
子どもたちが独立して
また二人に戻った日々にも
待ち合わせしてランチやお茶をするのです。
 
それになんとも、
容子さんが最初から最後まで、
とてもかわいらしいのです。
本の終わりの方は
かなりのおばあちゃんのはずなのに…。
本当に妖精のように思っていたのだと
伝わってきました。
 
ブックレビューでも
そのように紹介されていたと思いますが
最後の娘さんのあとがきが
これまた素敵でした。
訥々とした本文とはまた違い、
なんだかとても泣けてしまいました。
 
死ぬ最後の瞬間まで
ずっと思い合っていた
素敵な夫婦で
憧れてしまいます。
 
結婚している人も
結婚していない人も
「結婚っていいなあ」
って心から思える一冊です。
 

# by momo-iruka | 2008-08-25 01:41 | エッセイ

「しゃばけ」畠中恵   

  
「しゃばけ」畠中恵_a0060532_325228.jpg


やっと読み終わりました、「しゃばけ」。
正直言って、ストーリーは、
どうだろう、と思うところも少々ありましたが、
これは読者をわくわくさせる作品だと感じました。
 
なんというのか、その世界観が楽しいです。
普通の人には見えない妖(あやかし)たちが
なぜか見える主人公。
ファンタジーなのですが異世界ではなく、
普通の(江戸の)世界なのです。
本当はわたしたちのまわりにも
それら妖たちが本当はいるのではないか、
そう思うと楽しくなってきました。
そうえば子どもの頃から
自分のまわりにも起きるかも知れない
不思議なお話が好きでした。
 
主人公の一太郎と妖たちの関係も暖かく、
もっとこの世界に触れてみたいと思える作品でした。
 
ファンタジーというと
異世界や魔法というイメージに
近頃どっぷりはまっていたので
新鮮に感じました。
また、時代物のちょっととっつきにくい感じもなくて
江戸の生活感が肌で感じられました。
まだちょっと物足りないところもあるけれど
だからこそまた次を読みたくなっています。
シリーズはどんどん続いていて
大人気になっています。
どんな風に展開されているのか楽しみです。

# by momo-iruka | 2008-08-16 03:34 | ファンタジー

「春のオルガン」湯本香樹実   

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ずっと気になっていた湯本香樹実、
やっと読みました。
 
今年の新潮文庫夏の100冊に
新しく入った作品で
勢いで買ってしまったのですが…。
(今年はエコバッグがプレゼントなんですよ!)
 
表紙が酒井駒子で思わず手に取りたくなること請け合い。
そしてタイトルも素敵。
「春」と「オルガン」の取り合わせが琴線に響きました。
 
しかし、内容は、
あまりオルガンには関係ありません。
謎解きも大きなドラマもなく
友情も青春も笑いもなく
小さな問題たちもほとんど円満な解決はなく
時間のあるときでなければ読み切れなかっただろうと思います。
 
でも、読後感は悪くない。
解説の角田光代がそんな風に書いているのをみて、
あ、なるほど、と思いました。
 
この物語の中心にあるのは多分、
「いらいら」。
自分が何者か分からないことへの「いらいら」、
自分が周りから浮いているような「いらいら」、
自分を取り巻く大人たちの自分勝手への「いらいら」、
自分のしたいことを分かっている弟への「いらいら」、
自分ではどうにもならないことへの「いらいら」。
 
主人公は小学校を卒業した後の
小学生最後の春休みを過ごす女の子。
初めて過ごす何者でもない数日間の
ふわふわ浮いた感じをわたしもよく覚えています。
自分が何者でもない自由さと不安。
大人はまだずっと先の将来で、
それでいて子どもにも違和感を感じ始める日々。
そんな不安や違和感を知らない妹への
羨ましさと苛立ち。
 
いつでも思い出せると思っていた感覚なのに
やっぱり忘れていたことに気づかされた作品です。
 
読んでいるときはそのいらいらや
不器用さや格好悪さが辛かったのだけれど、
こんなに鮮やかにそのころの感覚を
思い出させるなんて、
なんてすごい本なんだ、
と感じています。
 
いらいらするので
特におすすめしませんが、
印象に残る作品になりました。
 
一番印象に残ったことばは
主人公が出逢った
おじさんみたいなおばさんのことばです。

 どうしようもないかもしれないことのために戦うのが、
 勇気ってもんでしょ

いつも忘れずにいたいことばです。
弟の行為に対して言われた言葉なのですが
弟の描き方がすごくいいと思います。
いらいらするんだけど羨ましくもあり
そしてどうしようもなくいたわりたくもあり
主人公の弟への感じ方も共感できました。

夏なのに春の濃い匂いを感じる一冊です。
 

# by momo-iruka | 2008-08-16 03:31 | ヤングアダルト

「風花の里」佐々木丸美   

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北海道の余韻のあるうちに、と思い、
久しぶりに佐々木丸美作品を読了しました。
10年以上も積読にしていた本ですが、
手にして良かった。
 
北海道に行くのは3回目ですが、
冬の北海道は初めてでした。
北海道は佐々木丸美や原田康子、氷室冴子など、
北海道が舞台の小説でのみ知っている土地です。
一番最近では、桜庭一樹の作品を読みました。
何度いっても不思議なほど現実感や生活感を感じない、
特別な土地です。
 
ただ、旅行として行くと、
びっくりするほど遠くに来たという驚きはありません。
九州のわたしたちには考えられないくらい
暖房設備が充実していて
九州より暖かかったという、
非現実的な感想しかないです。
湿度の関係でしょうか、外気の体感温度も、
九州の方が低い気すらします。
マイナス10度の雪原よりも
マイナス1度の通勤の車の方が
ずっとずっと寒いです。
気分の持ちようでしょうか…。
北から来た人が
九州の寒さ暖房のショボさに悲鳴を上げる、
という話は聞いたことがありますが。
 
ところで本の話ですが
この作品は他の本の姉妹作なのですが
そちらを読んでいないとさっぱり意味が分からない構成で
実をいうとさっぱり意味が分かりませんでした。
 
それでも先を先をと
読みすすめてしまうのは
佐々木丸美作品がもつ世界観が
あまりにも独特で美しいからだと思います。
 
説明はほとんどなく
詩のようなことばが綴られていて
意味は分からなくても
その世界に身を置くだけで
トリップできるのです。
 
小さなころにあった人を
一途に思い続ける少女、
少女を守り続ける不思議な力を持つ猫、
それだけでも
乙女心が動き出します。
 
この勢いに乗って
姉編の「忘れな草」を読もうと思います。
この本は大学生の時に東京へ行き、
神保町で買ったという付箋がつけてありました。
 
風邪がなかなか治りません。
みなさん、お気をつけて。
 

# by momo-iruka | 2008-02-02 16:17 | 純文学